「固体中の電子に働く多体相互作用の定量評価」
島田賢也氏

Dec 15, 2010


物理学会北海道支部講演会
講演題目: 固体中の電子に働く多体相互作用の定量評価
講師: 島田賢也氏

  信州大学教育学部

日 時 : 平成22年12月15日(水) 16:00-17:30
場 所 : 北海道大学理学部2号館2階 2-211

要 旨 :
 最近、真空紫外線・軟X線領域の放射光を利用した角度分解光電子分光実験(ARPES)のエネルギー・運動量分解能が向上したことにより、ARPESスペクトルを一粒子スペクトル関数とみなして定量的に解析することが可能になった。原理的にはフェル面上の点を指定し、実験的に自己エネルギーの実部と虚部を導出し、準粒子に働く多体相互作用(電子ー格子相互作用、電子ー電子相互作用)の結合定数を評価できる[1]。私たちは、多体相互作用に由来する自己エネルギーや結合定数を実験的に評価することにより、超伝導や遍歴磁性などの固体物性の基礎的理解を目指している。
 これまでに金属の表面準位、バルク準位について多体相互作用の結合定数を評価してきた[2-7]。例えば、アルミニウムの表面準位では、電子ー格子相互作用の結合定数は~0.5、電子ー電子相互作用の結合定数は<0.1であり、電子ー格子相互作用の方が強い[3]。一方、鉄において多数スピンのバルク準位を調べたところ、電子ー格子相互作用の結合定数は~0.2に対して、電子ー電子相互作用の結合定数は~2であり、電子相関がかなり強いことが分かった[4]。ニッケルの結果からは、スピンの向きや波動関数の対称性によって結合定数が異なることが明らかとなった[5]。
 ごく一般的に複数のバンドがフェルミ準位を横切る物質(多バンド系)においてはフェルミ面やバンド分散が重なり合うため、精密解析を行うことは必ずしも容易ではない。そこで私たちは放射光の直線偏光特性を活用することに着目した。光学選択則をうまく利用すると入射光の直線偏光面と単結晶試料の鏡映面(=検出面)の幾何学的配置により、観測可能な始状態のブロッホ軌道の対称性を決めることができる。すなわち波動関数の対称性を指定してフェルミ面やバンド分散を分離観測することが可能となる。私たちは、新しい直線偏光依存高分解能ARPES装置を開発し、ルテニウム酸化物超伝導体Sr2RuO4の電子状態の精密解析を行った。その結果、波動関数の次元性に対応して、電子ー電子相互作用に由来す るくりこみ効果が異なること、電子ー格子相互作用の結合定数がフェルミ面に依存して異なること、スピンー軌道相互作用が重要であることを明らかにした[6]。
謝辞:本研究は広大放射光セの岩澤英明、生天目博文、谷口雅樹、広大院理の林 博和、姜健、産総研の相浦義弘、吉田良行、長谷泉の各氏との共同研究です。
[1] Ed. S. Hufner, Very High Resolution Photoelectron Spectroscopy (Springer-Verlag, Heidelberg, 2007).
[2] J. Jiang et al. e-J. Surf. Sci. Nanotech. 7 (2009) 57.
[3] X.Y. Cui, K. Shimada et al., Phys. Rev. B 82 (2010) 195132.
[4] M. Higashiguchi et al. Phys. Rev. B 72 (2005) 214438.
[5] M. Higashiguchi et al. Surf. Sci. 601 (2007) 4005.
[6] H. Iwasawa, Y. Aiura et al., Phys. Rev. Lett. 105 (2010) 226406.

世話人  小田 研
(moda@sci.hokudai.ac.jp)
北海道大学大学院理学研究院物理学部門

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「しょっぱい砂糖とスピンの開放」
鹿野田一司氏

Oct 05, 2010


物理学会北海道支部講演会
講演題目: 「しょっぱい砂糖とスピンの開放」
講師: 鹿野田一司氏

  東京大学大学院工学系研究科

日 時 : 平成22年10月05日(火) 16:30-18:00
場 所 : 北海道大学工学部A棟 A1-17(物理工学系大会議室)

要 旨 :
 二種類の分子が交互に積み重なってできるある種の分子性固体において、中性- イオン性転移という現象が見られる。分子間で電子が移動することによる電子エ ネルギーの損と静電エネルギー(マーデルングエネルギー)の利得が拮抗してい るために、温度や圧力など結晶の環境を変えることにより、"中性状態"と"イオ ン性状態"が入れ替わる現象である。この2つのマクロな状態の入れ替わりが量 子揺らぎとして現れ得ることが、堀内(産総研)十倉(東大)によって指摘され た。私たちの研究室では、この現象を核四重極共鳴という実験手法によって捕ら えることを試みた。この実験方法では、電荷の移動とその揺らぎを高い感度で調 べることが出来る。その結果分かったことが、本題目の意味するところである。

世話人  丹田 聡
(tanda@eng.hokudai.ac.jp)
北海道大学大学院工学研究院応用物理学部門

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