[TOPICS] UNi4Bのトロイダル秩序状態における新しい電流誘起磁化現象


原論文  Evidence of a New Current-Induced Magnetoelectric Effect in a Toroidal Magnetic Ordered State of UNi4B
Hiraku Saito, Kenta Uenishi, Naoyuki Miura, Chihiro Tabata, Hiroyuki Hidaka, Tatsuya Yanagisawa, and Hiroshi Amitsuka: J. Phys. Soc. Jpn. 87, 033702 (2018) [Editor's Choice].


【要旨】 蜂の巣構造上の電子スピンが渦状に並んで秩序した「トロイダル秩序」と呼ばれる磁気構造(図1)を持つ磁性体では、秩序状態で電流を流すと電流方向と垂直に磁化が誘起される現象が起きうることが2014年に理論的に予言された。本研究は、この理論予想を実際の物質(UNi4B)を用いて初めて実験的に検証したものである。


図1 蜂の巣構造状の渦状の磁気秩序状態(トロイダル秩序相と呼ばれる) 出典:S. Hayami, H. Kusunose, and Y. Motome, Phys. Rev. B 90, 024432 (2014). (この論文が、上述の理論予想の論文です。第1著者の速水賢 は北大の理論グループの助教。)


 多極子は系の異方的な電荷・磁荷分布を記述する物理量で、電荷分布を表すスカラーポテンシャルと磁荷分布を表すベクトルポテンシャルの展開から導かれる。特にf電子系をはじめとする強いスピン軌道相互作用を有する系においては、高次の多極子が秩序を支配することもあり、系の物性を記述するうえで不可欠な概念となっている。これまで、多極子の議論はそのほとんどが局在した磁性イオンと大局的な空間反転対称性を有する系に限られており、空間反転対称性が保たれた(空間反転対称性のパリティが偶の)多極子のみを扱っていたが、近年は、空間反転対称性を有しない奇パリティの多極子の理論研究が盛んに進められている。なかでも、複数のイオンサイトを一つのクラスターとして考えることにより、これまで平凡な反強的秩序と思われていたものがクラスターの対称性に合った特定の多極子秩序とみなせる、とする理論は特に注目を集めている。これはとりもなおさず、多極子の定義を空間的に拡張することを意味する。この理論の特徴的な点の一つとして、常磁性状態で空間反転対称性を有する系においても、反強的秩序に伴いパリティが破れ、奇パリティの多極子が秩序し得ることが挙げられる。例えば、ジグザグ鎖やハニカム、ダイヤモンド構造などはパリティが偶であるが、イオン位置では局所的に空間反転対称性が破れており、それに由来する奇数次の結晶電場が存在する。この電場は系のパリティを反映して交代的な配列をなし、総和としては0となっている。しかし、ジグザグ鎖上でイオン位置に反強磁性秩序が生じると、結晶電場と磁気モーメントの結合により秩序に伴い系全体のパリティが破れ、トロイダルモーメントや磁気四極子など奇パリティ多極子が有限となり得る。これらの奇パリティの多極子が強的に秩序した場合、電流による磁化誘起現象などの非対角応答をはじめ、多様な新奇物性が生じることが理論提案されている。以上の研究は現状では理論が先行しており、実験的検証は始まったばかりである。
 最近、我々の研究グループは、上記の理論を実験的に検証するため、磁気トロイダルモーメントの強的秩序が発現していると理論予想されている金属反強磁性体UNi4Bにおいて定電流下の磁化測定を行い、電流によって秩序相内で付加的に磁化が誘起される現象を初めて観測した。この成果は、日本物理学会が発行する英文誌Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)の 2018年2月号に掲載された。


図2 [0001]方向から見たUNi4BのUを含む層の結晶・磁気構造。結晶構造は実際には斜方晶だが、六方晶からの歪みが微小であるため六方晶の軸表記を用いている。ハニカムをなす橙の実線は磁気トロイダルモーメント(面に垂直な赤矢印)を構成する磁気モーメント(青矢印)を繋いでいる。


 UNi4BはUが僅かに歪んだ三角格子を組む結晶構造をとる。Uを囲むNiとBの配置からU位置には空間反転対称性がなく、本系は局所的に空間反転対称性が破れた系の一つである。本系の TN = 20.4 K以下の反強磁性相では、Uのうちハニカムをつくる2/3が三角格子面内に寝た渦状の磁気モーメント配列をもつことが提案されている(図2)。この渦状の磁気構造は磁気トロイダルモーメントtの定義と同じであることから、tが三角格子面に垂直な方向([0001])を向いた強トロイダル秩序(図1 赤色ベクトル)とみなせる。理論では強トロイダル秩序相内で面内に電流を印加することにより、電流とtの両者に垂直な方向に磁化が誘起することが予言されている。本研究ではUNi4Bに対し電流下の磁化測定を行い、三角格子面内[2-1-10]方向の電流印加により、面内でそれに垂直な[01-10]方向への磁化が付加的に誘起されていることを明らかにした(図3)。この「電流誘起磁化」は、通常の磁性体の磁化に比べて百万分の一程度の弱さであるため、本質的な信号以外の電磁的なノイズを如何に除去するかが課題であった。本研究では、磁化測定装置(量子干渉磁束計)の出力信号を解析する独自の手法を考案して、この問題をクリアした。
 一方、この印加電流による磁化誘起現象の異方性が理論と完全には整合しないことから、詳細な結晶・磁気構造に立ち戻った検証が必要であるが、局所的に空間反転対称性が破れた系において、磁気秩序に伴う電流による磁化誘起が観測されたという点において、理論の本質的な正しさを支持していると言える。それは即ち、これまで平凡な反強磁性体と思われていた化合物群においても、奇パリティ多極子秩序を内包しているものがあり、電気磁気効果をはじめとする多様な物性研究の舞台となり得ることを強く示唆している。
 今後はこの新しい電流磁気効果の普遍性について、他の様々な金属反強磁性体で検証したい。また、電流駆動磁気デバイスなどへの応用の可能性も検討していきたい。


図3 我々が観測した電流誘起磁化の様子(20.4 K以下のトロイダル秩序相において電流方向で反転する磁化が生じていることがわかる)。










Category: Research | Static URL: /research/UNi4B.htm |