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Topics: 超音波からみた多極子・ラットリング
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5-4 これまでに超音波測定から得られたオフセンターラットリングの傍証

Sep 29, 2011

第5章 超音波からみたラットリング


5.4 これまでに超音波測定から得られたオフセンターラットリングの傍証


これまでに紹介した$Ln$$_3$Pd$_{20}$Ge$_6$と$Ln$Os$_4$Sb$_{12}$ ($Ln$ = 希土類)カゴ状化合物に於いて,超音波測定で観測される超音波分散と低温ソフト化の特徴的な実験事実を下記に箇条書きし,オフセンターラットリングとは何かを浮き彫りにしよう.¥¥

【低温ソフト化】

  1. キュリー・ワイス則に従う低温ソフト化が観測される.解析により得られるワイス温度は負で
  2. La系では$T$ = 20 mKにおいても,低温ソフト化が止まらない.
  3. LaOs$_4$Sb$_{12}$はBCS 超伝導転移を迎えても低温ソフト化が続くが,PrOs$_4$Sb$_{12}$の低温ソフト化は非BCS超伝導転移温度で止まる.

    【超音波分散】

  4. アレニウス型の緩和時間の温度依存性で良く説明できる.
  5. 低キャリアのCeOs$_4$Sb$_{12}$では観測されていない.

    【低温ソフト化と超音波分散に共通する特徴】

  6. $4f$ 電子を持たないLa化合物でも観測され,磁場の影響を全く受けない
  7. 超音波分散無き物質では低温ソフト化は観測されていない.
  8. $Ln$Os$_4$Sb$_{12}$, $Ln$$_3$Pd$_{20}$Ge$_6$では明瞭な超音波モード依存性がある(一方で$Ln$Fe$_4$Sb$_{12}$では$C_{11}$, $C_{44}$モードの両方で超音波分散が観測され,モード依存性は無い).

これらの現象の解釈には論争中で未解明なものも混ざっている.先ず,確実に言えることから述べよう.
上記の実験事実1.)と6.)から,低温ソフト化の起源は$4f$電子の四極子自由度とは異なる電荷自由度による局所的且つインコヒーレントな現象であり,サイト間相互作用が反強的であることがわかる.そして実験事実 2.)から,その量子状態は20 mKに於いても縮退を保ち続けていると言える.一方,実験事実 4.)から『超音波分散の起源は熱活性型の緩和現象である』ことがわかる.また,6.)のような共通の性質を持つことから,少なくとも低温ソフト化と超音波分散の起源が非磁性で,歪み場と結合する局所電荷自由度であることは結論できる.


これ以降は,未解明の部分である.
 まず実験事実 5.)は,超音波分散が単にカゴの中にイオンを閉じこめ,カゴのサイズを大きくすれば実現するような単純な起源ではないことを示唆する.非弾性中性子散乱実験や,ラマン散乱では数meVのエネルギーを持つゲストモードがCeRu$_2$Sb$_{12}$やCeOs$_4$Sb$_{12}$において共通して観測されているのに対し,どちらの系でも超音波分散は観測されない.一方,充填スクッテルダイト化合物のCe系化合物はほとんどが低温で強い混成効果による低キャリアの近藤絶縁体,もしくは近藤半導体となる.そのため,内包イオンの局所振動が格子系と結合し,超音波分散として現れるためには伝導電子との相互作用が必要なのではないかという推測に達する.服部らは$¥Gamma$点近傍の音響フォノンと光学フォノン間の波数に依存する混成を考え,伝導電子と光学フォノンの結合によるエネルギー散逸機構により,音響フォノンが変調を受け,超音波測定はそれを超音波分散として捉えたものであるという理論提案を行っている. [76]

また一方で,伝導電子が居る系においても,実験事実 8)が示すように,カゴを構成する一部の元素の置換によって超音波分散が全く観測されないというコントラストがあらわれている[51,65].具体的に書くと,$Ln$Os$_4$Sb$_{12}$, $Ln$Fe$_4$Sb$_{12}$で低温ソフト化と超音波分散は観測されるが,$Ln$Ru$_4$Sb$_{12}$では観測されない[72].同様に,$Ln$$_3$Pd$_{20}$Ge$_6$では観測されるが,$Ln$$_3$Pd$_{20}$Si$_6$では観測されていない.これらの場合,元素の置換によってカゴの大きさも変化するため,超音波分散の活性エネルギーが変化し,問題は単純ではない.即ち,共鳴条件$¥omega ¥tau ¥sim 1$を満たす超音波の測定周波数と温度が測定可能な実験条件に入らない場合,超音波では観測できないことになるからである.超音波分散と低温ソフト化の起源が共通の根を持つのかどうかはまだはっきりしていないが,低温ソフト化が観測される系では必ず高温側に超音波分散が観測されているという実験事実 7)は,両者に何らかの関係があることを示唆する.石井らは,La$T_4$Sb$_{12}$ ($T$ = Fe, Ru, Os)において,遷移金属Os, Ru, Feの持つ伝導バンドのフェルミ面上での状態密度がFe $>$ Os $>$ Ruの順に大きいことと,超音波分散・低温ソフト化の発現に相関があることを指摘している[66].もしそうならば8)に示した超音波分散が現れるかどうかのコントラストとモード依存性は,フォノンと伝導電子との結合の大小や異方性により生じていることになるだろう.一方,超音波分散が観測される充填スクッテルダイト化合物において$^{139}$La-NMRの超微細結合定数が負の値を示すことが指摘されており[67],5.2章の最後に述べた「核四極子」と歪みとの関係を臭わせる.

さて,LaFe$_4$Sb$_{12}$はnon-$4f$系にしては比較的高い電子比熱係数$¥gamma$の存在が興味深い[68].そのため電荷揺らぎの自由度とフォノンや伝導電子が強結合系を生み出るというエキゾチックな重い電子状態の形成機構が議論されている.次章ではその典型例であるSmOs$_4$Sb$_{12}$の超音波分散の観測について紹介しよう.


図32 LaOs$_4$Sb$_{12}$の弾性定数$C_{11}$の超音波分散 (a) 周波数依存性の実験結果, (b)計算, (c)超音波吸収係数[64]



図33 PrOs$_4$Sb$_{12}$の弾性定数$C_{11}$の超音波分散 (a) 周波数依存性の実験結果, (b)計算, (c)超音波吸収係数



図34 NdOs$_4$Sb$_{12}$の弾性定数$C_{11}$の超音波分散 (a) 周波数依存性の実験結果, (b)計算, (c)超音波吸収係数 [75]



図35 LaOs$_4$Sb$_{12}$の弾性定数$C_{11}$の低温ソフト化[60]



(第6章に続く)

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